損害保険商品の契約確認書に対する考察
2007年06月07日
保険の契約確認書取り扱いの背景
各種保険金の不払い問題に端を発した金融庁による厳しい監督によって、すべての保険会社が保険業法に基づく行政処分を受けることを恐れて、過去一年余、必死でその対応に取り組んで来ました。
すでに行政処分を受けた保険会社もあり、これから受ける可能性のある保険会社も多いものと予測されます。
1996年の保険業法改正以来、各保険会社は 「コンプライアンスの徹底」 と称して、いろいろな規定やルールを自主的に作成して業務を行って来ました。
そして社員だけではなくて、代理店にもその規定・ルールにしたがって業務を行うことを求めて来ました。
「保険募集の公正を確保し契約者の保護を図るため」 というのが、その公式な建前です。
2006年12月になって、損害保険業界では損保協会加盟各社の協議により、「適正な保険引受けの徹底を図る目的で、火災保険の確認調査をはじめ、保険商品全般にわたり個々のご契約内容や保険料について、各社が個別に確認調査を実施する」ことを決定しました。
保険金の不払い問題への対応です。
さらに2007年4月1日より 「保険会社向けの総合的な監督指針」 が改正されて、個人向け商品について、契約の申込みに際し、当該商品がお客様のニーズに合致した商品であることの確認書面をお客様より頂くか、またはそれと同等の体制整備が必要となりました。
先ず4月1日からは火災保険について実施し、6月1日からはこれを全損保商品で実施することになっています。
保険のお客様のためになるのか?
新聞やテレビで既に報道されているように、保険会社もその代理店も、大いに反省し改めなければならない点が多々存在したことは事実です。
しかし、損害保険会社の立場からすると、実際には 「保険募集の公正を確保し契約者の保護を図るために、コンプライアンスを徹底しました」 という建前かなと思われます。
決してお客様の意向や利便を本気で配慮しているのではない ・・・
むしろ契約に際する書類への署名や捺印によって、契約者からの事後の異論や抗議等の発生を最小限に抑えることを願っているのです。
「この契約について、あなたは納得し、理解して契約したのです。その証拠にあなたのサインと捺印が存在しているのです。だから後から文句を言ってはいけませんよ」 と・・・
優良な専業代理店の多くは、
「今回の保険会社の姿勢は、ただ金融庁の顔色をうかがっているだけで、お客様のことなど本気で考えていない」と言っています。
保険の購入状況は、お客様がこの代理店がいいと判断し、その信頼の上で、代理店が勧める保険商品の選択や付保内容を受け入れて契約していたと言えるでしょう。
代理店の中には、業務知識も商品知識も殆どないような担当者によって、契約が行われているものがあります。
通常どの保険会社でも活躍している、数年間の研修社員としての経験を積んだ後に独立した専業代理店とは、当然かなり大きな能力の差があります。
しかし、そのような知識不足の担当者の業務を改善するために、今回の 「当該商品がお客様のニーズに合致した商品であることの確認書面」 を使うことが、本当にお客様のためになるのか、甚だ疑問に思えます。
なぜなら、お客様自身が代理店担当者以上の保険業務知識と保険商品知識を持っていなければ、知識不足の担当者の説明に疑問を差し挟むことなど不可能だからです。
それは無理というものでしょう。
「確認書面」について
かなり細かい字で印刷された10数ページの詳細な 「確認書面」 は、素人であるお客様にもし真面目に説明しようとすれば、半日がかりでも無理のように思える内容です。
いつものスーパーに行って惣菜を買おうとしたら、「この商品の目方は・・、使用原材料は・・、添加物は・・、賞味期限は・・、返品の際の規定は・・」 などと長々と説明されて、最後に自著によるサインを求められるようになっていたとしたら、これをだれが契約者保護の有効な手段として喜ぶでしょうか。
さらにお客様の署名欄には、契約担当者から説明を受けたのは保険の申込人(通常被保険者)であったか、それともその配偶者、親、満20才以上の子、もしくは成人後見人であったかのチェックが必要なのです。
たとえ申込人が手が震えてペンに力が入らないおばあさんであっても、代わりに息子やお嫁さんがサインしてあげることが出来ないのです。
これは近年多くの人が、銀行の窓口などでも経験しているのと同じ困った現象です。
その上、一旦この 「確認書面」 にサインした契約者は、この契約内容に関して十分に納得し理解したことにされてしまいますから、いざ事故になった時には最早保険会社の処理方法や支払い保険金について、異議や抗議を呈することが以前よりも難しくなります。
そんな約款の規定は知らなかったとか、自分は違った理解をしていたなどと不服を述べても、 「それはあなたが悪いのよ」 ということになります。
もちろん昔から、保険金の支払い等の業務は約款に基づいて行われるもので、交渉によって規定を変更するようなものではありませんが、保険会社の損害担当課にとってはこの 「確認書面」 は、うるさく文句を言う契約者を追い払うのに大いに効果があることでしょう。
一般契約者を、しかも事故に遭って一番立場の弱い時に、 「それはあなたが悪いのよ」 と言って泣かせることにはなっても、お世辞にも決してお客様に親切で好意的なものであるとは考えられません。
結論を言えば、この「契約確認書」はお客様に労を押し付ける感があり、好意的には見れないということになります。