医療保険制度改革の厚生労働省試案
2006年03月28日
平成14年12月17日、厚生労働省から「医療保険制度の体系のあり方」(試案)が提示されました。
試案のポイントは二つです。
規模のバラバラな保険運営団体を「都道府県単位を軸に再編する」こと、それに「75歳以上の高齢者医療について別建ての制度を設ける」こと。ともに、医療保険の財政基盤をいかに安定させるかが大きなテーマとなっています。
注目すべきなのは、後者の高齢者医療制度に関して、二つの新制度創設案が併記されたことです。
一つは「助け合い方式」と呼ばれ、若年加入者の多い医療保険(企業の健康保険組合など)が、高齢加入者の多い医療保険(国民健康保険)を財政支援する仕組み。
もう一つは「独立保険方式」と呼ばれ、75歳以上を対象とした新たな医療保険を設けるというものです。
公費やほかの保険からの支援に加えて、高齢者本人から新たに保険料を徴収し、それを保険財政に充てるという仕組みです。
現行の高齢者医療は、老人保健制度という別会計を設け、ここに各医療保険が拠出を行っていいます。
このまま急速な高齢化が進めば、機械的な拠出は医療保険の財政を悪化させ、若年層への負担増がますます厳しくなります。
今回の2案は、これらの懸案を何とか乗り切るために出された苦肉の策と言っていいでしょう。
2案を併記するという異例のやり方は、どちらの案を採用するかによって、各種団体・医療保険の利害関係が真っ向から対立するという懸念が背景にあります。
例えば、「助け合い方式」を採用した場合、財政支援する側の企業健保などは負担が増すため、経済界を中心に反発が予想されます。
逆に「独立保険方式」を採用すると、75歳以上の加入者がごっそり抜けてしまう国保は保険料収入が悪化するため、市町村を中心に反対論が根強いでしょう。
しかしながら、重要なのは、いまの保険財政や保険料負担がどうなるかだけではありません。
高齢化率がさらに上昇していく中で、10年、20年先はどうなのかという未来像を頭に描くことが求められるわけです。
予想されるのは、ごく近い将来、「高齢者医療を社会保険でまかなうことは不可能」という議論が出てくる可能性があることです。
公費負担(税金投入)の比率を劇的に引き上げるというビジョンを描いた時、高齢者医療を完全に独立させるという流れは止まらず、そうなると「独立保険方式」を採用しておいた方が汎用性がききます。
高齢者医療をどうするかは、全国民にとって非常に切実なテーマです。
それが、将来的に財務省と与党の綱引きに利用されてしまうかもしれない状況では、暗たんたる気持ちにならざるをえませんね。
高齢者医療を政争の道具にしないためにも、財務省や与党とは別の立場から厚生労働省の存在意義を見せてほしいですし、常に当事者不在の日本の立法の現状ですが、我々も勉強して、自ら自分達の仕組み作りに関わっていきたいものです。